日本の高度成長期に労働者の待遇が劇的に向上し、多くの日本人の年収が文字通り倍増したのも、新規ビジネスが次々に生まれ会社が成長し、人手不足が起きたからなのです

クソな労働環境文化が、なぜか突然、消え去ったのでしょうか?

もちろん、クソ労働環境の原因の一つはそういう労働文化だったでしょう。

領主も農民も、そういうクソ労働環境を当然のこととする労働文化を内面化しており、領主は農民を奴隷のようにこき使うのが当然と考え、労働者にはそれを受け入れてしまう奴隷根性が染みついていたのでしょう。

まるで、現代日本のクソ経営者と社畜たちのように。

しかし、クソ労働環境文化など、経済的な前提が変われば、吹き飛んでしまうものなのです。

そんなことは、人類史上、何度も何度も起こってきたことです。




実は、ヨーロッパの農民の待遇を劇的に向上させた原因は、

大開墾運動でした。*1

 

領主達は、自分の所領の森を切り開き、畑にし始めました。

森を切り開いて畑にするには、人手、すなわち労働力が必要です。

 

そこで、領主達は入植者を募集しました。

ところが、現在と待遇が同じであれば、

わざわざ新しい開墾地に「転職」する理由がありません。

待遇が変わらないのであれば、わざわざ今までの生活を捨て、苦労して森を切り開いて畑をつくるなんてバカバカしいので、それでは人は集まりません。

 

そこで、領主はいままでよりもずっと有利な条件で入植者を集めることにしました。

具体的には、賦役労働はなく、定率や定量の税だけ納めればいい、というような条件でです。

 

こうして、森が切り開かれ、新しく畑が作られると、領主の収入は増えました。

農民も、いままでよりもずっとよい待遇になったので、幸せになりました。

収入が増え、生産性も上がり、生活は豊かになり、人口も増えていきました。

 

そうしたら、その成功を見た他の領主達が、同じことをやり出したのです。

すなわち、好待遇で入植者を募集し、どんどん森を開墾し始めたのです。

これが、ヨーロッパ大陸全域へ拡大していきました。

 

ここで重要なのは、近隣の古い村落の農民が、その好待遇に釣られて流出し始めたという点です。

これに危機感を感じた領主達は、農民の流出を防ぐため、古い村落の農民にも、同じ待遇を与えなければならなくなりました。

領主と農民の間の権力ゲームにパワーシフトが起きたのです。

 

こうして、開墾地だけでなく、ヨーロッパ大陸全域の農民の待遇が劇的に改善し、

最悪のクソ労働環境がみちがえるように改善し、

ついでに、人類史的な大規模森林破壊が起こり、

ヨーロッパ大陸を覆っていた夜のような森は、ずたずたに破壊されて消えていったのです。

ヘンゼルとグレーテルや眠れる森の美女や森の精霊達の世界も消えていったのです。




結局の所、農民の待遇を革命的に改善した原因は、開墾という新規ビジネスの立ち上げが創出した雇用であり、人手不足であり、労働力の需給バランスの変化でした。

開墾という新規ビジネスの立ち上げを、ヨーロッパ中の領主が一斉に始めたために、ヨーロッパ中が人手不足になったのが原因だったのです。

 

もちろん、これはなにも1000年前に一度起きただけのことではありません。

人類の歴史において、何度も何度も繰り返し起きてきたことです。

新規ビジネスが次々に立ち上がり、人手不足が起きるとき、労働者の待遇が改善するのは、人類の長い歴史において、何度も何度も起きて来たことなのです。

 

日本の高度成長期に労働者の待遇が劇的に向上し、多くの日本人の年収が文字通り倍増したのも、新規ビジネスが次々に生まれ会社が成長し、人手不足が起きたからなのです。

 

もちろん、現代日本において、クソな労働環境を改善するには、労働基準監督署の取り締まりを強化することは必要ですし、労働規制の強化が有効な部分もあるでしょう。

 

しかしながら、労働規制を強化しさえすればクソ労働環境が改善される、という考えはヌルいように思われます。

d.hatena.ne.jp